そして、二年前のある日。
いつものように友人たちと共に家に招かれたときのことだ。
猛以外の友人たちが煙草を吸いにベランダに行き、武がトイレに立った隙に麻里子が突然言ったのだ。
「隠すのも、大変でしょう?」
猛はその言葉で、すべてを悟った。
「…知ってるのか」
麻里子は悲しそうな笑顔で頷いた。
「ずーっと、知ってたわ」
その瞬間、麻里子の瞳が少しだけ潤んで見えたのは見間違いではないだろう。
「知ってて黙ってるのか」
麻里子は静かに頷いた。
麻里子は言った。だからいいの。騒いだって、彼が浮気相手を忘れる訳じゃない。
「今まで嘘をついていてくれてありがとう。猛さんは、優しい人ね」
麻里子がそう言って笑うと、猛はそれ以上何も言うことができなかった。


