麻里子と武が結婚し、新築マンションに引っ越してからというもの、猛は他の友人たちと共に何度となくふたりの新居に招かれるようになっていた。
武はもちろん、学生時代からの友人である猛や他の友人達が妻に浮気のことなど話すはずがないと思っている様子だった。
猛自身も、何も知らずに幸せそうにしている麻里子を、わざわざ傷つけたくはなかった。
猛は口を閉ざし、ふたりの前では最低限の会話以外しないと決めた。
もともと不器用な猛に気を使ってか、何も知らずにいつも黙って微笑みかける麻里子が猛にはいじらしく思えた。
そしていつしか、麻里子に本気で惹かれ始めている自分に気がついていた。
安っぽい同情や下心なんかではない。
もしも麻里子が悲しい思いをするようなことがあれば、どんなことをしてでも彼女を支えてやるつもりだった。
武と浮気相手の関係は、あの後も続いているようだった。
武は仕事や飲み会と称して女と会っていることも珍しくなく、猛以外の友人がそのアリバイ作りに協力させられることもあった。
武の家に集まって麻里子の手料理を振る舞われているとき、ふとした会話から武の嘘がばれてしまいそうになると慌てて話を合わせなければいけないことも多かった。
「あんな綺麗な嫁がいて、バチが当たるぞ。」
話を合わせた後にこそっと仲間から言われる台詞さえ、武がむしろそう言われたがっているように思えてならなかった。


