トルコの蕾






榎本武は完璧な男だった。



学生時代からスポーツも学校の成績も優秀で、その上笑うと目尻が下がるタイプの端正な顔立ちのおかげでとにかく女には人気がある男だった。



猛は武と同じサッカー部に所属していたこともあり、絶対的エースの武とゴールキーパーの猛は、気がつけば何かと一緒に行動する仲の良い友人同士になっていた。

武とサッカーについて語るとつい熱くなって時間を忘れる程で、チームメイトとして、エースとしては武は最高の男だった。


けれど、ただひとつ、ひっきりなしに女が替わるという武の女癖の悪さにだけは、理解も共感もできなかった。


同時に何人かの女と付き合っているという話は武にとって武勇伝のようなもので、けれどもそれらは猛にとっては何よりつまらない、どうでもいいような話だった。



大学を卒業して四年、しばらく連絡が途絶えていた武から突然会いたいと連絡があり、その時初めて、結婚を考えている相手として麻里子のことを紹介されたのだった。





あのとき、せめて結婚前に武の女癖の悪さを麻里子に話してやることができていたら、もしかしたら少しは状況が変わっていたかもしれないと思うと今でも猛はやりきれない気持ちになる。



仕方なかったのだ。



武は麻里子と出会って変わったのだと、あの時は確かにそう思えたのだから。