麻里子は優しすぎる女だった。
友人の妻に手を出すということなど考えたことすらなかったどころか、そんなことをする男は生きる価値がないと思って生きてきた。
そういった類の話を耳にすると、そんな馬鹿な男に引っ掛かる最低な人妻もいるのだと罵るような男、それが猛だった。
けれど麻里子と出会って彼女を知れば知るほど、猛はそうせずにはいられなくなっていた。
すべて奴が悪いのだ。
猛は思う。
武が麻里子をあんな風に傷つけさえしなければ、自分はただ影で麻里子を見つめているだけの存在でいられたはずだった。
麻里子。
猛は彼女のことを思うたび、彼女だけは一生自分が守ってやらなければと心に誓う。
彼女のことを想うたび、彼女の望みならどんなことであろうと叶えてやりたいと願う。
たとえそれが、どんなに歪な愛のかたちであったとしても。


