「あのっ…正樹さん…」
思いもよらず正樹に会えた驚きと嬉しさの入り混じった感情で、しどろもどろになりながら絵美はどうにか口を開いた。
「あの…どうしてここが?」
花屋で働いているとは話したけれど、店の場所まで教えた覚えなどなかった。
「ああ、実はね」
正樹は恥ずかしそうに、少し間を置いて黙り込んだ。
そしてひとつひとつの花を丁寧に愛でるように、じっくりと狭い店内を見回した。
「実は知ってたんだ。君がここで働いていること」
「えっ?」
絵美は驚いて息を飲んだ。
「な…どうして…」
かわいそうなくらい困った顔で棒立ちになっている絵美に、正樹は少し真剣な顔つきになって言った。
「ときどきこの店のガラスの向こう側からじっと見てたんだ。バレンタインのあの日よりもっと、ずっとずっと前から。」
「そんなバカな…。」
絵美は開いた口がふさがらなかった。
彼が自分を見ていたなんて、そんなドラマみたいな素敵な話があるんだろうか。
「驚いた?だからあの日、君が店に来たときは本当にびっくりしたんだよ。オイオイ、幻か?!ってね」
正樹はまた恥ずかしそうに、ふふっと笑う。
「落ち込んだときも花に囲まれて幸せそうな君を見てたらさ、なんだかこっちまで元気になれる気がしてた」
絵美は体中の力が抜けたような気がして、何がなんだかわからなくなった。
カチャンと音をたて、持っていたハサミが床に落ちた。
神様、どうかこの夢が永遠に醒めませんように。
絵美はただそれだけを願った。


