ホテルのベランダで電話をしていた武が部屋に戻って来ると、真希はわざと不機嫌そうに武に言った。
「奥さんと?」
武はにっこりと笑って首を振った。
「違うよ」
真希の細長いしなやかな腕が、シーツからにょきにょきと二本伸びている。どうしてこの女はこうまで魅力的なのだろうと武は考えた。
きっと好きなことをしているからに違いない。
好きな花に囲まれて一日を過ごし、何かに縛られることなく生き、自分という好きな男と寝ているからだと武は思った。
この女は全てが麻里子とは違うのだ。
「ねえ、武。子どもが生まれる前に、別れましょう。あたしたち」
真希は突然そう言った。
ついさっき自分と裸で抱き合ったばかりの女は、少しも言い淀むことなく、悲しそうな表情を浮かべることもなく、まるでもうずっと以前から決めていたかのようにそう言った。
「何を言ってるんだ、いくらなんでもいきなり過ぎるだろ」
まさかエイプリルフールだとでも言うつもりなのだろうか。この女ならやりかねないと武は思った。
いや、そうであって欲しいのかもしれない。
「あたし、本気よ。子どもに罪はないもの」
真希はほんの少しだけ、ほんの少しだけ寂しそうな表情を浮かべてそう言った。
「それにあたし、パパって呼ばれてる武には、魅力を感じない」
「真希…!」


