真田真希が店長を勤める、駅前にある小さなフラワーショップ。
営業時間は普段は21時まで、母の日とクリスマスだけは22時まで営業している。
「あたしも来年は誰かにお花貰いたいなぁ」
浅井絵美はカウンターに置いた淡いピンク色のポインセチアを眺めながら呟いた。
「花ねえ、絵美ちゃんって歳いくつだっけ?」
真田真希が銀色に光るバケツを洗剤で手際良く洗いながら尋ねる。
真希の細い指は毎日冷たい水を扱っているせいで、ずいぶんと皮膚が厚くなっている。
いくら職業病だといったって、こんなに年中ささくれた傷だらけの手をしていたら指輪なんて誰も買ってくれないよ。というのが真希の口癖で、花屋になって五年になる真希は今まで誰かに指輪はおろか、花束なんてものをプレゼントしてもらったことは一度もない。
「歳ですか、23になりました。…えーっと…あっ、間違えた。わ、これクレジットの控えだ。危ない危ない」
浅井絵美はレジを開けてお札を数えていた途中だったが、真希の質問に答えたせいで数え間違えてしまったらしく、慌てて最初から数え始めた。
「ごめん、ごめん。焦らないでゆっくり数えて。今日は何時間でも残業代つけていいから」
真希は笑いながら言った。
今日は片付けを終えたら最終電車もなくなってしまうだろう。
「タクシー代はあたし出してあげるからさ」
真希が言うと、
「あ、あたし今日、自転車で来たんです。遅くなるかなと思って」
絵美がえへへと笑いながら答えた。
黙っていればタクシー代を貰えたものを、と思いながら、いわゆる田舎出身である絵美のそういうところがいいなと真希は思った。
『毎日お花に囲まれていられる楽しい仕事』
そんなふうに思って入るとすぐに辞めてしまうのが花屋という職業だ。
真希はガラス張りのディスプレイコーナーに飾った、クリスマス限定ブーケとアレンジメントの見本を片付け、年末用のアレンジメントに作り替える。
赤や白の鮮やかなバラやコットン、ゴールドクレストで作ったクリスマスツリーは目立たない位置に下げ、大きなガラス製の花瓶に菊や南天、雲龍柳などを使って高さのある和風のディスプレイを仕上げていく。
「わぁー。一気にイメージ変わりましたねぇ!!日本のお正月って感じ」


