「はぁ、今年もクリスマス終わっちゃいましたね」



少し色褪せた黒いカッターシャツに黒いパンツ、腰に巻くタイプの長いエプロンをつけた浅井絵美が、肩まである栗色の髪をシュシュで結び直しながら呟いた。



長い睫毛にほんのり赤く染まった頬、化粧っけのない幼い顔立ちが、全身真っ黒の出立ちのおかげで余計に際立ってしまっている。



「忙しかったぁ…。あ、レジ閉めなきゃ」



髪を結び直した絵美はレジカウンターに駆け寄った。



「あ、お腹鳴っちゃった」



絵美は一瞬立ち止まり、両手でお腹のあたりを押さえてみた。いつもの半分の時間ですませた昼休憩が、遥か遠い昔のことのように思える。その休憩で何を食べたかももう思い出せないほど忙しかったのだから当然だ。


「いくら売れたかなぁ」


特に誰かに返事を求めるわけでもなくそう呟いて、レジのダイヤルを点検に合わせる。慣れた手つきでいくつかのキーを押すと、画面に項目別の売上金額が表示された。



「去年の売上は超えたんじゃない?あ、まだあと2時間はクリスマスよ、絵美ちゃん」


浅井絵美と同じ、全身真っ黒の動きやすいスタイルに、こげ茶色の髪を頭の上に大きなお団子でまとめた真田真希が言った。



疲れを感じさせない清々しい表情で、真希は鮮やかな緑色の葉が大量に落ちた床を箒でせっせと掃いている。

猫のようなアーモンド型の瞳をアイラインで強調してはいるけれど、2日間以上ほとんどまともに眠っていなかったせいで、いつものリキッドファンデでも荒れた肌は隠せない。



「あっ店長、このポインセチアひとつ持って帰ってもいいですか?」



鉢ごとラッピングしてカウンターに飾っていた3寸サイズの小さなポインセチアをひと鉢持ち上げて、アルバイトの絵美が店長の真希に向かって嬉しそうに言った。



「なんならぜんぶ持って帰ってもいいわよ」



真希は呆れたような表情で言った。

絵美がたくさんあるポインセチアの鉢植えの中から選んだ淡いピンクのポインセチアは、どちらにしても明日からはほとんど売り物にならない。


クリスマスには欠かせない真っ赤なポインセチアも、今日でお払い箱という訳だ。



「やったぁ!このピンクの狙ってたんです!ぜんぶ売れなくてよかったぁ…」



小さなポインセチアを抱えて、絵美は嬉しそうに笑った。