「寒かっただろ、待たせてごめんな」



正樹は言った。



「あ、いえ…」



こんなとき、絵美は自分が田舎出身でファッションにもこれといったこだわりがないことを悲しく思う。

お洒落で背の高い正樹の隣を並んで歩くと、自分はずいぶん不格好に見えるのだろう。すれ違う女の子がいちいち振り返り、正樹と自分を見比べているのがわかるのだ。



「あの…、どこへ行くんですか…?」



絵美は隣を歩く正樹を見上げながら、恐る恐る尋ねた。



「今日はホワイトデーだから」



正樹は言った。



「バレンタインのお返しをしようと思って」



「そんな…、わたし、お返しなんて…」



絵美は申し訳なくなって俯いた。

名前すら知らなかったくせに、突然押しかけてチョコレートを渡した女にお返しをしようなんて、どこまで義理堅い人なんだろう。

気を使って誘ってくれたのなら尚更、彼に悪いことをしてしまったと絵美は思った。



「ごめん、嫌だった?」



正樹が俯く絵美の顔を覗き込んだ。

絵美ははっとしたように顔を上げる。



「まさか!そんな訳ないです!」



正樹はそれを見て笑った。



「なら、良かった」




あんなにも憧れた正樹の笑顔が、こんなに近くにある。

こんなに素敵な人がホワイトデーの夜に、自分なんかと並んで歩いている。


絵美は今にも心臓が飛び出しそうな気分だった。