「マネージャー、姪っ子さんがいるんですか」
「ああ、妹の娘で3歳だ」
園山の顔が緩んだのを見て、真希はふっと笑った。
「3歳って、すごく可愛い年頃じゃないですか」
「もう、たまらんよ。俺のこと、まーくんって呼ぶんだけどそれがもう、可愛いくって可愛くて。目の中に入れても痛くないってのはこういうのを言うんだな」
園山はニヤニヤと笑いながら雛祭りアレンジを棚に戻す。
「雛祭りの前日に届くように、妹の家に送ってやってくれないか。住所はまた店のパソコンに送っておくから」
「わかりました」
いつもは無表情で何を考えているのか解らない彼のこんな緩みきった表情を見るのは初めてだ。意外にも笑うと可愛いじゃないかと真希は思った。きっとこんな彼を見たことがあるという人は少ないのだろう。一回りも年上の男を可愛いなんて、どうかしているとは思うけれど。
「真希ちゃん、何か困ったことがあればすぐ連絡して来いよ。君は何でもひとりで解決しようとする癖がある」
園山は言った。真希は思わず黙り込む。急にそんな真面目な話をされたことと、同時にどうしてそんなことが彼にわかるのだろうと少し驚いた。
「仕入れとの連携も、うまく行かないときは俺に連絡してくれたらすぐにこっちから言ってやることもできるんだからな。欲しいものが手に入らないと困ることだってあるだろう」
図星だった。仕入れ担当の社員が全店分の仕入れをまとめて行ってくれることで、花屋特有の早朝から市場に出かけることをしなくていいシステムは、園山が取り入れたものだ。
そのおかげで、パソコンで発注さえすれば花が届き、店の営業に集中できるのは店舗スタッフにとってはありがたい。けれどその日の仕入れがうまくいかないと、欲しい花が店に届かないで困ることも多いのだ。
他の店の店長がどうしているのかは知らないが、真希は注文した花が届かなくても、他の花で代用するか諦めるかのどちらかで、とくに本社にクレームを上げたりしたことはなかった。
「はい、ありがとうございます」
真希が答えると、園山は真剣な顔つきになって言った。
「俺はね、君が売れると思うものは、きっと売れると思ってるんだ。だからそういうことはちゃんと報告してほしい」


