「ただいま」
広くはないが清潔感のある、真っ白い壁のマンションの一室には、ガラスの花瓶に生けた様々な種類の花が並んでいる。
真希が店から持ち帰った、処分する予定だった花だ。
「おかえり、真希」
太一が頭を少し上げて言った。彼が本を片手に寝そべっている淡いグリーンのソファーは、アウトレットモールで見つけてきた二人のお気に入りだ。
「タッちゃん、なに読んでるの」
真希はソファーに近付いて、太一の手から読んでいた本を取り上げた。
「名付けの本?なによ、これ」
太一は立ち上がり、真希からその本を奪い返した。「仕事の帰りに買ったんだ。って、笑うなよ」
「あたし、妊娠なんてしてないよ。ていうか、なんで結婚情報誌とかより先に、名付け本なわけ?」
真希は半分馬鹿にしたように笑って、太一の頬をつねった。
「イテッ!やめろって!なんとなくだよ」
太一は真希の手を振り払った。
「てか俺、プロポーズは前にもしただろ?普通さ、真希が買ってくるんだよ。結婚情報誌とか、そういうのは」
太一はソファーに腰掛けて、真希に隣に座るように目で合図する。
真希は素直に太一の隣に座る。弾力があって柔らかいソファーが、ふたりぶんの体重を受けとめた。
「何回でも言うよ?俺は真希が好きだから、ずっとずっと一緒にいたい。結婚しよう」
真希は小さく頷いて、「あ」と思い出したように言った。
「まさかタッちゃんは、ズルしてないよね?」
「なんの話?」
「なんでもない」
真希はふふっと笑って、太一の頬に軽くキスをした。


