「これ、他店でバカ売れらしいぞ」
園山が店に持ってきたのは、黒いトレーに入った小さな苗だった。
取っ手のついた紙製のポットで、既にひとつひとつがギフト仕様になっている。
「何ですか、これ」
絵美が園山に尋ね、トレーの中を覗き込んで「わぁ!」と声をあげた。
「すごい!四つ葉ばっかり!」
《幸せの四つ葉のクローバーをあなたに》というポップ付きのクローバーの苗は、一見普通のクローバーに見えるけれど、よく見れば小さな苗にしてはかなりの割合で四つ葉のクローバーが生えている。
つまり奇形の四つ葉を、生産者がうまく栽培したということだ。奇妙な光景に真希は顔を背けた。
「こんなの、反則でしょ。ズルして幸せになろうとしたってダメだっつの」
園山は、思った通りの反応だとばかりに真希の態度にふっと笑った。真希とは対照的に、絵美は目を輝かせている。
「そんなことないですよ!みんな幸せになりたいですもん。きっと売れますよ!これ」
絵美は言った。「あたしなら、買っちゃうなぁ」
「そりゃあ、売れるでしょうね。実はこれ、知ってたんだけどあえて注文してなかったの。嫌いだから」
真希は言った。「でも絵美ちゃんが、そう言うなら売ってもいいかな。…マネージャー、これとりあえず2ケースお願いします」
「了解。仕入れに伝えておくよ」
園山は手元のトレーからポットをひとつ取り出した。
「絵美ちゃんに、あげるよ」
「やった!」
四つ葉のクローバーの苗を受け取って、絵美は満面の笑みを浮かべた。


