「店長の結婚式のブーケは、わたしに作らせて下さいね」
薔薇のとげとりをしながら絵美が言う。
「店長のイメージは、グリーン多めのナチュラル系ブーケなんです。だからもうその時は張り切って、本物のジャングルに花材集めに行ってきますからね!」
絵美は勝手な想像に胸を膨らませている。
「だから、まだ結婚なんて決まってないって言ってるじゃない」
真希が呆れ顔で言うと、絵美は楽しそうに「またまたぁ、そんなこと言って」と笑いながら言う。
「からかうと絵美ちゃんの結婚式のブーケ、作ってあげないわよ!」
真希が怒ったような表情を作り、絵美のほうをちらりと見る。
絵美は途端に「ご…ごめんなさいっ!わたし、結婚式は絶対に店長にブーケ作ってもらいたいんです…!」と泣きそうな顔で訴える。
恋の力は偉大だな、と真希は思う。
太一と付き合うようになってから、真希は今まで感じたことのない安らぎと安心感を手に入れた。
太一と抱き合うだけで嫌なことはすぐに忘れることができるし、太一と眠ると朝までぐっすり眠ることができるのだ。
「いらっしゃいませ!」
店内に絵美の元気な声が響き渡り、花屋の仕事はやっぱり素敵だな、と真希はふと思う。
今日も明日も、誰かの恋のお手伝いができる。愛情を伝えるお手伝いができる。
それはとても、とても幸せなことなのだ、と。


