「…まったく、こんな日にあたしと会おうなんてどういう神経してんだか」



「ん?何が?」



「とぼけないで。新年初出勤の日ぐらい、早く帰ってやんなさいよ。奥さん妊娠してんでしょ?」



バーのカウンターに頬杖をつきながら、真希は呆れ顔で吐き捨てた。



「俺は真希に会いたかったんだから、仕方ないだろ?今日は俺の奢りだから」



真希と並んでスーツ姿でカウンター席に腰掛け、ウイスキーの入ったグラスを鳴らしながら武は言った。



「おあいにく様。所帯持ちに奢ってもらうようなセンスのない女じゃないの、あたしは」



真希は武を馬鹿にしたようにふふっと笑ってソルティドッグを飲み干した。



「そうか、お前はかっこいい女だな」



武は真希の飲みっぷりを見てぷっと吹き出しながら呟いた。



「真希のそういうとこ、好きだよ」



「軽々しく好きだなんて言わないで」



真希が大きな瞳で武をぎょろりと睨み付ける。



「またそうやって睨む。こわいなぁ、真希は」



武はそんな風に言いながらも、内心どこか清々しい気持ちでいっぱいだった。


麻里子と話しているといつもぬるま湯に浸かっているような気持ちになるからだ。


真希は難しいボールをこっちの気持ちなどお構いなしにバンバン投げつけてくる。

気の強い女が時折見せる色気はたまらない、と武は真希を見詰めながら思う。



「真希は綺麗だから黙って大人しくしてりゃモテると思うんだけどなぁ」



武はわざとらしく腕組みをして、真希を上から下までまじまじと眺める。



「ちょっと!ジロジロ見ないでよ」



「黙ってろって!…うん、綺麗だ。やっぱり」



武は満足げに笑っている。真希は黙って俯いた。店内にはボリュームを抑えたクラシックが流れている。