「こんな遅い時間まで店にいるんだな」



園山は言った。

そっちだってこんな遅い時間にまだ会社にいるじゃないかと真希は心の中で反論する。
今日の売上金額をメールで本社宛に送信したのはつい5分ほど前だった。



「はい。忙しかったですから」



真希は店の外を眺めながら言った。

はっきりした顔立ちのイケメンである園山マネージャーが40歳近くになってまだ独身なのは、きっと仕事ばかりして女をほったらかしにするからなのだろうと真希は思った。



「相変わらず仕事熱心だな」



その言葉、そのままあなたにお返ししますと言いたかったがやめておいた。

上司と電話をしながら年越しなんてまっぴらだ。



「今年もお世話になりました。来年は、ときどき店を見に来て下さいね、園山さん」



「ああ行くよ、優秀な部下に会いにね。差し入れは、流行りのスイーツでいいか」



「スイーツ?無理しないで下さい。お煎餅でいいですよ」



真希が言うと、園山はわははと楽しそうに笑った。



「ひどいオッサン扱いだな。俺だってスイーツくらいわかる」



「じゃあ、期待してます」



「ああ任せろ。じゃあ、また」



「はい、ありがとうございます」



真希がそう答えて電話を切ると、どこからか除夜の鐘が聞こえていた。