702と書かれた個室のドアの前に立つと、やはり緊張しているということなのか足が震えた。
鮮やかな黄色とオレンジを中心にした大振りのアレンジを片腕で抱え直し、病室のドアをノックする。
「どうぞ」
中から聞こえてきたのは女性の声だった。看護師か家族が来ているのかもしれないと真希は思った。
ついに父親の顔が見られるのだ。真希は深呼吸で気持ちを落ち着かせ、ゆっくりと病室の扉を開けた。
「失礼します」
窓から差し込む太陽の光が眩しくて一瞬目を閉じる。
そっと目を開けると、白いパイプのベッドを半分起こし、もたれかかる初老の男がそこにいた。
髪はほとんどが白髪になり、皺も多いが、髭は綺麗に剃られており、青い縞模様の大きめのパジャマを着て、ごつごつとした手の甲には点滴の管が痛々しく繋がれている。
元はたいそうな美男子だったのではないだろうかと思わせる睫毛のふさふさとした目を細め、花かごを抱えた真希を黙ってじっと見つめていた。
「織田輝真様に、お花をお届けに参りました」
できる限りの冷静を装って、真希は言った。
すると真希の斜め後ろから、先程の女性の声がした。
「…あなたが、真田真希さん…?」
真希が振り返ると、そこには太一とよく似た優しい顔立ちの女性が立っていた。


