白くて大きな建物は、何度も配達に来たことのある場所だ。
病院の前を走る大きな道路に沿って、銀杏の木が点々と植えられている。
真希は総合病院の入り口の前で立ち止まった。
総合病院の7階の702号室、この病院に父親がいる。
躊躇するのは止めようと真希は思った。
第一、一度も会ったことのない父親が、自分のことなんて解るはずもないのだ。
ただの花屋として花を届けて、そのまま帰ればいい。
たったそれだけのことだ。
話せないほど弱っているなら、心の中で「くたばれ浮気男」とでも言ってやればいい。
他人以下の存在なのだから、病気で死ぬなら勝手に死ねばいいのだ。
真希は深呼吸をひとつして、病院のエントランスをくぐった。


