「あいつとはね、俺が大阪の大学に通っていたときに出会ったんだ」
正樹は懐かしそうに話し始めた。
「俺もまだ若くて、恋愛の経験なんてまるでなくて。それなのに何かに追い立てられるみたいに、大学生になったんだから俺も早く恋人が欲しいなんて思ってた」
絵美はこくりと頷いた。なぜか涙が溢れそうになる。「…それで?」
「それでね、あいつは大阪の、ミナミのキャバクラで働いてたんだ」
正樹とキャバクラ。似ても似つかない者同士なように思えるのに、正樹はそれを臆することなく口にする。それだけで絵美はまたしても泣きそうになった。
それでも、正樹がどんな風にして初めての恋に落ちたのか、知りたいと思ってしまう自分がいた。
絵美はうん、と頷いた。
「俺は、大学の近くのレストランでアルバイトをしてたんだ。そのバイト先の先輩に、キャバクラに誘われた。俺はそういうのは正直言って苦手だったし、断ろうとしたんだけど、なんだか田舎者だって思われたくなくて」
正樹は思い出すようにふっと笑った。
「それで初めて、キャバクラに行った。席に着くとね、俺よりちょっとだけ年上の綺麗なお姉さんが隣に座った。バカみたいな話なんだけど、興味もあってちょっとずつその隣に座ったお姉さんに惹かれてしまったんだ。向こうは仕事なのにね。」
「…それが、あの人?」
絵美は聞いた。それがあの、レインボーローズみたいな女の人なのだ。
「そう。それでね、俺、言っちゃったんだよ、『何でこんな店で働いてるんですか、辞めたほうがいいですよ』ってね。そしたら彼女、何て言ったと思う?」
「…何て言ったの…?」
「『アンタがあたしと付き合って、本気で愛してくれるんやったら辞めてもいいで』って言ったんだよ。俺は田舎者だからって馬鹿にされてるんだと思って、ムキになって、『じゃあ、今すぐ辞めて下さい。』って言った。それで彼女と付き合うことになったんだ」
正樹はまた、ふっと笑った。
「あんまりにもガキっぽくて、笑っちゃうような話だろ?それが大学二回生のとき。俺はまだ二十歳だった」


