その日、家に帰ると正樹は部屋には来ていなかった。


いつも仕事が終わったあとに来るはずのメールもない。



彼女はきっと、あのあと正樹に会いに行ったのだ。

そしてきっと、忘れられなかった彼女と正樹はまた付き合うことになったのだ。




それで良かったのかもしれない。


自分なんて、正樹には釣り合っていないと最初から解っていたし、正樹の口から『ひとりだけ』と言われた時点で、彼はまだ彼女のことが好きなのだと感じてしまったのだから。



絵美はバフとベッドに倒れ込んだ。



涙がシーツに吸い込まれていく。



何度も抱き合ったベッドには、まだほんの少し、正樹の匂いが残っている。



「正樹さん…」



絵美はベッドに顔をうずめたままそう呟くと、ズズズと鼻をすすった。



いつもは心地良い正樹の匂いが、今日は息苦しく感じた。