ノートパソコンの画面を見ていた絵美が、「店長、」と真希に声を掛けた。



「どうしたの?」



真希は店頭に造花の色づいた紅葉や銀杏を飾り、巨大なオレンジ色のかぼちゃと手のひらサイズのミニかぼちゃを並べている。



「…花キューピットで、変な注文が来てるんです」



絵美がプリンターから一枚の注文書を取り出しながら言う。



「変な注文?」



真希がミニかぼちゃを両手に顔を上げる。



「はい。一週間後の配達で、配達先の病院がすぐ近くだから受けたんですけど、なんだかいろいろと怪しいっていうか…、もしかしたら店長のストーカーかなって…」



「あたしのストーカー?」



真希は不安げな表情の絵美から、プリントアウトした注文書を受け取った。



花キューピットというのは全国の花屋さんのネットワークの名称で、花キューピットに加盟することで全国からの注文をインターネットやFAXで受け取ることができる仕組みである。


客は通常、県外へ花を届けたい時には花キューピット加盟店であれば、その店舗からの直接の発送か、花キューピットのどちらかを選ぶことができる。


花キューピットの利点は、自宅近くの花屋を通して、届け先に一番近い加盟店に注文ができること。つまり、より新鮮な状態で花を贈ることができること。

店舗からの直接発送の利点は、客が花束やアレンジメントの細かな内容を指定できることにある。




真希が受け取った花キューピット注文書には、追記で『真田店長に届けてもらいたいとのこと。』と書かれていた。



「なによ、これ」



真希が眉をひそめると、絵美が申し訳なさそうな表情で、「すみません…やっぱりちょっと気持ち悪いですよね…、今からでも断れないでしょうか…」と言った。



「まあ、大丈夫でしょ、届け先は病院になってるし。監禁されたりする心配もないじゃない?ただのあたしのファンかもしれないしさ」



真希は不敵な笑を浮かべて言った。花屋の配達では不思議なことやおかしなことが頻繁に起こる。差出人の名前を言わず『Mより』とだけ書かれたカード付きの花束を届けたこともあるし、水着姿のお姉さんに花束を手渡したこともある。



「心配しないで。あたしが帰って来なかったら、すぐ警察に電話してくれればいいから、ね?」



絵美は心配そうに「はい…」と頷いた。