絵美が初めてのときに感じた痛みは、既に別の感覚へと変化し始めていた。
正樹が目を閉じて顔を歪めると、溢れ出す愛しさにいてもたってもいられなくなり、正樹の指が優しく太ももに触れる度、それ以上のことを求めてしまう自分がいる。
正樹が喜んでくれるなら、どんなことでもしてあげたいと願う反面、そこでもまたしても他の女の人と比べられることを恐れてしまう。
「ねぇ、正樹さん?」
正樹の腕枕に頭を預け、彼の胸板に顔をぴたりとつけながら、絵美は思い切って言ってみた。
「今まで、何人と…その…付き合ったの?」
正樹は一瞬、驚いた顔で絵美を見た。
そして、ふっと笑った。
「気になるの?」
なんだか馬鹿にされたような気がして、絵美は顔を逸らした。
「…そりゃあ…気になる。だって…あたしは…その…初めてだし…」
ぶつぶつと小さな声で反論すると、正樹は「えーっとね…」と言って両手で指折り数え始めた。
「…そんなにいるんだ…」
絵美が絶望に打ちひしがれていると、正樹はまたふっと笑って「冗談だよ」と言った。
「絵美ちゃんと、その前にもうひとりだけ。ひとりだけだよ」
「…ひとりだけ…」
いっそのこと、百人とでも言われたほうがましだった、と絵美は思った。
ひとりだけ、なんて、大切そうに言わないで欲しかった。
まるで、
今でも忘れられない人みたいに。


