真希は家を飛び出した。
制服のスカートがめくれるのも構わず、とにかく走って、走って、走って、そして、大声で泣いた。
織田輝真という名前を、真希は昔からよく知っていた。
小学生の頃、連絡ノートに太一がよく書いたその名前が、今でも脳裏に焼き付いて離れない。
織田輝真は、太一の父親の名前だった。
「三大テノール、って知ってる?」
小学6年生の頃だった。真希は太一に尋ねたことがある。
太一は答えた。
「ルチアーノ·パヴァロッティ、プラシド·ドミンゴ、ホセ·カレーラス、だろ?」
クラシックのテノール歌手の名前をそらで言える小学生は、少なくとも真希の周りに太一以外いなかった。真希は驚いた。
「なんで知ってるの?!」
「父さんが好きなんだ」
どうして気がつかなかったのだろう。小さな頃から誰よりも仲が良く、誰よりも大好きな太一と自分は、同じ父親を持つ腹違いの兄妹だったのだ。
働いてばかりで自分を見ていなかった母は、自分の娘があろうことか、同じ父親を持つ太一と、一番の親友であることすら知らなかったのだ。


