封筒のなかには、封筒と同じ柄の便箋が一枚と、一万円札が三枚入っていた。



どんな気持ちで娘へ宛てた手紙に現金を入れたのだろうと真希は思った。母はそういう人間で、小さな頃から夢見ることを一度も教えてはくれなかった。

折り畳まれている便箋は裏側が少し透けて見えていた。それを広げずとも、とくにぎっちりと文字が書かれている訳ではないということは明白だった。



真希は臆することなく便箋を広げた。




『 真希へ



これをあなたが読んでいる、ということは、わたしは死んだのかもしれません。


あなたが生まれてからずっと、あなたには寂しい思いばかりさせて何も母親らしいことはしてあげられませんでしたね。
でもね、真希。
わたしはあなたのおかげで今まで生きてこられたの。


辛い思いばかりさせて、本当にごめんなさい。



あなたにはお父さんがいますが、わたしのせいでお父さんには一度もあわせてあげることができませんでした。



もしもこの先、あなたがどうしてもお父さんに会いたいと思うことがあれば、探してはいけないとは言いません。

だから最後に伝えておきますね。



あなたのお父さんの名前は、織田輝真といいます。



そう、あなたの真希という名前は、わたしの苗字の真田からとった訳ではないの。



お父さんの名前、輝真からとったものなのです。



今まで嘘をついていてごめんなさい。



わたしは生涯ひとりぼっちだったけれど、真希、あなたはひとりぼっちではないのよ。



どうか幸せになってくださいね、真希。



母より   』