「真希、俺と一緒に暮らさないか?」
久しぶりに訪れたホテルの一室で、大きなバスタブにつかりながら武が言った。
真希は洗った髪を流しながら「えっ?」と言って振り向いた。
「武とあたしが?」
真希は驚いて聞き返す。
考えてもみなかったことだった。妻がいる武とこうして時間を気にせずゆっくり一緒にお風呂に入る、それだけでも十分、真希にとっては非日常なことだった。
それなのに。
「ああ、一緒に部屋を借りないか?」
さも当然の成り行きであるように武は言う。
「今住んでいるマンションは引き払うから」
「何言ってるの?突然そんなこと言われても」
髪を流し終えた真希は、クリップで濡れた髪をひとつにまとめながら怪訝な表情で武に言った。
真希の大きくはないが形の良い胸が、細くしなやかな両腕に引き上げられてツンと上を向き、そのあまりの美しさに武は思わずふっと笑う。
「真希は俺と一緒にいたくないのか?」
バスタブのなかから武が手招きしながら真希に向かって言う。
「俺はさ、」
武が両手で髪をかきあげる。濡れた硬い髪がオールバック風に撫で付けられて、いつもより何倍も男っぽく、真希はふと彼と出会った頃を思い出した。
「俺は真希と一緒にいたいよ、これからはずっと」
そう言って笑った武の表情は、真希が恋した、自由で優しい武の表情そのものだった。


