祖母が死んで、アパートでの一人暮らしが始まった。
オフィス街のフラワーショップにアルバイトとして見習いで働き始めてすぐのことだった。
寂しかったから、といえばその通りなのかもしれない。
けれどあの日。
武との出会いによって、うまれてからずっとひとりぼっちだった真希の人生に、柔らかくてあたたかな、確かな愛が降り注いだような気がした。
妻のいる武に抱かれることで、ほとんど話すことなくこの世を去った母親の気持ちを少しでも感じることができるような気がした。
武に抱かれながら真希は思う。
母は寂しかったのだ。
報われない恋に苦しみ、誰にも話せない寂しさや悲しみに耐えて、周囲の人間から蔑んだような目で見られることを承知で、母は自分を産んだのだ。
会ったことのない父親に、母がどんな風に抱かれ、どんな思いで父親を愛し続けたのかが、武といることで自分にも感じられるような気がした。


