「わぁ…すごい!」
山の中腹あたりの見晴らしの良い場所で、正樹と絵美は車を降りた。
都会では見られない満天の星空に、静かに流れる天の川。
「あれが天の川?」
後から車を降りてきた正樹が、星空を見上げながら絵美に尋ねる。
絵美はうっとりと空を眺めながら、ゆっくりと頷いた。
「近くにこんなに星が綺麗な場所があったんですね」
「でも、なんだか想像と違うな。もやっとして雲と見間違いそうだよ」
正樹は腕組みをして、夜空に霧がかかったような天の川を不思議そうに見つめている。
「すごいですね、織姫と彦星は」
絵美が言った。
「一年に一度しか会えない恋人同士が、お互いのことを想い合っていられるなんて」
正樹はそれを聞いて、ふっと笑って絵美の近くに寄り添った。
「ふたりはね、結婚しているんだよ」
「…えっ?」
絵美が驚いた表情で正樹を見上げた。
「あんまりにも夫婦の仲が良すぎてね、織姫も彦星も働かなくなってしまったんだ。それで見かねた織姫の父親が、ふたりを引き離したんだって」
「…知らなかった…」
ぽかんとする絵美に、正樹はにっこりと微笑みかけた。
「だからね、ふたりはそんなに可哀相ではないんだよ」
きらきらと輝くふたつの星が、夫婦なのだと知って絵美はなぜだか穏やかな気持ちになった。
「よかった。天の川を見たら、いつも悲しい気持ちになっていたから」
絵美が嬉しそうに正樹にそう言うと、正樹はまたふっと笑ってゆっくりと絵美の肩を抱き寄せた。
「ねえ、絵美ちゃん」
絵美が恐る恐る顔を上げた。
心臓の音が正樹に聞こえてしまいそうで、絵美は思わず胸に手を当てる。
「…はい」
正樹は小さく深呼吸をして、夜空を見上げて言った。
「俺と付き合わない?」


