白い壁に掛けられた、造花のプルメリアで縁取った時計の針が24時を指した。
真希の部屋のテーブルの上には、飲みかけの缶ビールが二本と普段は使わない、どこかの居酒屋のテーブルから持って来たような灰皿に煙草の吸い殻が居心地悪そうに収まっている。
「織り姫と彦星とは大違いね、あたしたち」
狭いベッドの上に裸で横たわり、武の腕枕でぼーっと天井を見つめながら真希は言った。
「武は奥さんに捨てられて、あたしは別れたはずの不倫相手にまた抱かれてる」
「そんな風に言うなよ」
「武はどうしようもない男だし、あたしは節操のない馬鹿な不倫女だもん。お似合いよね、あたしたち」
真希は情けない表情で、ふふふと笑った。
「織り姫と彦星に怒られちゃうかもね」
「俺にはもう、真希しかいないんだよ…」
武が両方の腕で真希をぎゅっと抱き寄せる。
「お願いだ、俺の側にいてくれ」
「やめてよ、そんな武見たくない」
腕を振り解こうとするけれど、うまく力が入らない。
「あたし、自分がどうしたいのかわからない。武のこと、まだ愛してるのかもわからない」
真希は言った。
「欲張りになったみたい、あたし」
「…欲張り?」
武はさらに両腕に力を込める。
「そう。あたし、もっと普通に、純粋に恋がしたい。普通にデートして、セックスするだけじゃなく、もっと心から愛し合いたい」
「俺は真希を愛してるよ」
真希はぶんぶんと首を振った。
「愛してない」
「武はあたしのこと、愛してない」


