絵美の体がびくんと跳ねる。
トクトク、トクトクと体中が心臓になったような気がした。
落ち着かなくちゃ…そう思うほど、鼓動は激しさを増していく。
右手の上にそっと置かれた正樹の左手が、絵美の右手の指と指の間にそっと重なってぎゅっと握りしめられると、それ以上なにも考えることができなかった。
「あ…あ…あの…運転危ないんじゃあ…」
絞り出すような掠れた声で絵美が言うと、正樹がふっと笑って落ち着いた声で言った。
「大丈夫。片手でも運転はできるよ」
絵美は黙り込み、思わず目を瞑って下を向いた。
23歳にもなって、自分はなんて臆病で情けない女なんだろう。
男の人に触れられただけで、こんなにも取り乱してしまうなんて。
「なぁ、絵美ちゃん」
優しい声で正樹が自分の名前を呼ぶ。
もうそれだけで、呼吸ができなくなるくらいに胸がいっぱいになってしまう。
所々に反射板があるだけの暗い夜の道を走り抜けると、左右に一面の田んぼが広がった。
空には月と、数え切れない星、星、星。
「もう少し先まで行ったら、車を降りてみようか」
確かめるように絵美の右手をぎゅっと握り、正樹が言うと、絵美は黙って頷いた。


