「天の川って、見たことある?」
助手席の絵美に向かって正樹が言った。
七夕の日の今日、絵美が真希とともに店の後片付けを終えると、携帯電話に正樹からメールが届いていた。
『仕事が早く終わった。迎えに行くから待ってて。』
相変わらず素っ気ない文面だったけれど、絵美は正樹に会える嬉しさで胸が高鳴った。
正樹を初めて自分の部屋に招き入れたあの日、緊張で自分のいれたコーヒーの味すらちっともわからなかったけれど、ゆっくりとふたりきりで話をすることができた。
絵美が自分の生まれ育った町は星がとても綺麗に見えて、秋には絵に描いたような紅葉で山が彩られるという話をすると、正樹はとても興味深そうに耳を傾けてくれた。
正樹は男ばかりの三人兄弟の末っ子として自由奔放に育ったことなどを、面白おかしく笑いながら話してくれた。
緊張していた絵美もたくさん笑って気持ちが溶けた頃、正樹は自分から『そろそろ帰るね。コーヒーごちそうさま。』と言ってにっこりと笑った。
もっと正樹と話をしたいなと絵美は思ったのだけれど、正樹が『これ以上ここにいたら俺、何するかわかんないからね。』と笑って言ったので、帰ってもらうしかなかったのだ。
今日も真希にからかわれて真っ赤になりながら、絵美は駅前の広場で真希と別れ、いつもの駐車場で正樹の白いワゴンに乗り込んだ。
「俺、天の川ってプラネタリウムでしか見たことないんだよね」
正樹が車のフロントガラスから空を眺めてぽつりと言った。
「あたしの住んでた田舎では、見えましたよ天の川」
絵美が故郷を懐かしむように正樹に言った。
「晴れた日に、近くの山に登ってよく星見たなぁ…」
正樹は驚いた顔でへぇと呟いた。
「そうなんだ。羨ましいな」
「ど田舎ですからね」
絵美がふふふと笑いながら言う。
「もう何年も見てないなぁ…。正樹さんにも見せてあげたい」
絵美の言葉に正樹が「あのさ、」と真剣な表情をして言った。
「さん、いらない。正樹でいいよ」
「えっ…でも…」
戸惑う絵美に、正樹は思いついたように、突然言った。
「絵美ちゃん、今から天の川見に行かないか?」


