トルコの蕾






ガラスボードのデスクに散らばった書類の山。デスク上には所々に目を休める為の小さな観葉植物が置かれている。

親指サイズの小さなサボテン、シンゴニューム、テーブルヤシ。

薄い葉に細い茎、いかにも乾燥に弱いアジアンタムは、世話が苦手な自分ではきっとすぐに枯らしてしまうだろうと考えながら、オフィスでイタリア製のチェアに深く腰掛け、園山雅人は溜め息をつく。


社長が所有するフラワーショップの売上が、ただ一店舗、真田真希が店長を務める店を除いて、ここのところどこも前年を下回っている。


望んで引き受けた店舗マネージャーの仕事ではなかったが、やはり面接は人事部に任せるのではなかったと、園山は後悔していた。

自ら選んで店長に引き上げた真田真希だけが、思ったとおりの好成績を出し続けているからだ。



花屋の経験はない園山だが、売れる店に必要なものは何かという事なら知っている。


売れる花屋の店長にもっとも必要なのは、経験年数や技術ではない。持って産まれたセンスと洗練されたビジュアルだ。ビジュアルといっても美人であればいいという訳ではなく、花屋に似合っているかが重要で、まさに真田真希の外見はそれにピタリと当てはまる。

売れる店には独特の雰囲気があり、それを作り出すのはその店の店長だ。季節ごとに変わる店頭のディスプレイ、そしてスタッフの醸し出す空気。


真田真希が店に立っているだけで、道行く人が振り返って店を覗き込み、吸い寄せられるように花を買う。

人を引き寄せているという自覚がないのだろう。彼女はいつも平然と仕事をこなしている。


初めて店で見た瞬間から、園山は彼女を店長にすると決めていた。


彼女のことをいい女だ、とも思う。

付き合う女に不自由したことはないが、美人でも女を武器にする女や、アジアンタムのように手のかかる弱々しい女は自分の好みではない。けれど真田真希はそうではない。
センスが良く、黙って着実に結果を残す彼女にはアドバイスももはや必要ない。




店を訪れて彼女と話すと、いつも強い眼差しの奥に時折どこか寂しげな表情が浮かぶ。潤んだ瞳で彼女は何を見ているのだろうか。