「おはよう、麻里子」
隣で猛がベッドから上半身を起こし、麻里子を見下ろす形になっている。
「猛さん、もう起きてたんだ」
目をこすりながら麻里子もゆっくり体を起こす。
ダブルベッドの側に置いたベビーベッドでは、赤ちゃんがすやすやと寝息を立てている。
「昨日はよく眠れたか?」
猛が麻里子と赤ちゃんを交互に見ながら心配そうにたずねる。
「ええ。二回くらい目が覚めて泣いていたから抱っこして授乳したけど、その後はぐっすり」
麻里子が微笑む。
猛は満足げな表情で、「そうか」と言うとベッドから立ち上がった。
「俺がコーヒーでもいれるよ。あ、麻里子はノンカフェインのやつだったな」
「うん。ありがとう」
猛が逞しく優しい男だということは、武を通じて知っていたけれど、こんなにも注意深くマメな性格は、猛と一緒に暮らすようになるまで解らなかったことだった。
家の中ではソファーにどっぷりと腰掛けて、自分では一歩も動こうとしなかった武とは、何もかもが正反対だ。
今はこうして猛と過ごす休日の朝が何よりも幸せな時間で、主婦として武の為に全てを捧げていた頃には感じられなかった、自分が何よりも大切にされているという実感を味わうことが出来る。
「猛さん!」
麻里子はコーヒーの準備をしている愛する人に駆け寄ると、大きな背中にぎゅっと抱きついた。
「うわっ!びっくりした!危ないだろ、麻里子」
笑いながらそう言って振り返った猛の頬に軽くキスをして、麻里子はこの幸せを一生離さないと心に誓った。


