ブルーの紫陽花と淡いピンクのハイドランジアが店頭を彩る6月。


しっとりと湿った空気に暑さが重なって、人間も紫陽花のようにブルーな気分になりがちだ、と真希は店のカウンターから外を眺めながら思う。


涼し気なライトグリーンの薄い葉が細い茎にたくさん付いた、湿気が大好きなアジアンタムを白い陶器の器に植え替え、透明のガラスベースに生けた紫陽花の切花とともに店頭に飾った。



ジューンブライドとはいうけれど、日本でこの時期に結婚式を挙げる人達の気がしれない、と真希は毎年のように思う。


当日が雨になる確立が、いったい何パーセントあると思っているのだろう。


招待客のせっかくのスーツやドレスが犠牲になって、そのうえ帰りは欲しくもない引き出物やサンクスギフトを雨の中大量に持ち帰る羽目になるというのに。


ジューンブライドは女のエゴだ。


それでもこの時期のブライダル需要はやはり目を見張るものがある。


真っ白いカラーをシンプルに束ねただけのクラッチブーケや、淡いピンクと白のカップ咲きの香りの良いバラを何種類も組み合わせた、オーダーメイドのショートキャスケードブーケは、真希がもっとも得意とする分野でもある。


今日もひとり、今月レストランウエディングを挙げるという女性客との打ち合わせを予定している。



「雨、止みませんね…」



床に落ちた葉を箒で掃いていた絵美が、外を眺めながらため息をついた。


今日も正樹は迎えにきてくれるのだろうかと考えてしまうのは、彼に対して少し欲張りになった証拠かもしれない。



「そうね…」



真希もぼんやりと外を眺めながらそれに答える。


仕事に身が入らないのは、天気のせいだけではない。


武が離婚すると聞いてから、自分がどうしたいのかが解らなくなっていたのだ。