「ママ、ちょっと痩せたんじゃないか」
園山雅人は馴染みのスナックで、ワインレッドのソファに腰掛けながら言った。
「あら、嬉しい」
体のラインのわかるぴたっとしたタイトスカートに、胸元を大きく開けた白いブラウス。とうに還暦を過ぎているはずのママは、カウンターに戻りながら低めの声で答える。
「心配してるんだけどな、俺は」
園山は言った。自分もそれだけ年をとった、ということなのだ。
ひとりでも飲める落ち着いた雰囲気とママのキャラクターが好きでここに通うようになって、もう十年になるのだから無理はない。
「人の心配ばっかりしてないで、雅ちゃんも、早くお嫁さんもらわないと。来年四十歳なんでしょ」
ママがいつもの台詞を言い、園山の隣にブルーのドレス姿の若い女が座った。
「新しく入った、ナミちゃん」
ママにナミちゃん、と呼ばれたその女がにこっと笑って頭を下げる。長い金髪の巻き髪に白い肌、造りの派手な顔立ちに濃いメイクの美人だ。
「雅ちゃんはね、デザイナーなの」
「へえ、すごいですねえ」
「そんな格好いいもんじゃないよ」
ママやめて、と園山は言った。仕事上、会場装飾のデザインを考えたり作ったりもするが、デザイナーと言われるのは嫌いだった。
「でも、顔はすごい男前ですねえ」
ナミちゃんは言った。彼女の言葉の微妙なニュアンスが気になって、園山は尋ねる。
「関西出身?」
「あれ?わかっちゃった?隠してたつもりやったのに」
ナミちゃんはがっかりしたように言った。「関西人は面白いって思われてるでしょ?だから嫌なんです」
園山は笑った。「ママ、この子、面白いね」


