なんとなく、予想はついていた。
だけどちゃんと確認したかった。

彼はその名前が出てくることを予想していたのか、意外にも落ち着いた声音で答えた。

「……ぼく、の…兄さん…」

ちらりと目だけで彼を見る。
泣いていると思っていた彼は、意外にも泣いてはいなかった。

「ぼくが殺した、この家の長男だよ」

彼と一番上のお兄さんは、確か10も歳が離れている。
そして10年前に、事故で亡くなった。そう聞いている。

ちょうど今の、彼の歳で。

「日向兄さんが亡くなった後、償おうと…日向兄さんの代わりになろうってガンバったけど、…ダメだった。父さんも母さんも晃良兄さんも、はじめは期待してくれてたけど、ぼくは期待に応えられなかった。次男の晃良兄さんは、最初医者になる気なんてなかったんだ…病院の後継には日向兄さんが居たし、晃良兄さんは自分の好きな進路に行くはずだった。だけど、ぼくが学校にも行けなくなって…それから晃良兄さんは、進路を医大に変えざるをえなくなった…父さんは大事な期待の跡取りを失ったし、母さんはきっと日向兄さんが一番大事で大切だった。晃良兄さんの将来を、自由を奪ったのは、ぼくだ…ぜんぶぜんぶ、ぼくの所為なんだ」