感覚が戻ってきたあたしは、フォークを握り直して目の前の食事に向き直る。
ぎこちなくフォークで、お茶碗の中のごはんを一口、口に運ぶ。

あたしの好きな栗ごはんだ。
彼がどうなのかは知らないけれど。

それからお味噌汁もゆっくり口に含む。
ごはんもお味噌汁もすっかり冷めていた。

お腹が空いていたのと、出されたものは全部食べる主義なので、目の前にあった食事は全部綺麗にたいらげた。

彼の体は若干の抵抗を見せたものの、気合で食事を体に押し込む。
体が彼に戻ったら吐いてしまうのかなと思ったけど、気にしないことにした。

隣りのお兄さんと正面のお母さんが、僅かに驚いた顔でこちらを見ていた。
普段は殆ど食べずに残すと言っていたので当然だろう。
だけどもう、そこはやっぱり、気にしないことにした。

彼のお母さんの料理はとても手の込んだものばかりで、どれも美味しかった。
うちの大皿料理とはまるで違う。量もレパートリーも、食材も食器さえも違う。

広い家に豪華な食事。
はたから見たら幸せそうな家庭だった。

だけどそこに、彼の存在は許されていなかった。


「ふふ、今日は珍しくたくさん食べるのね…日向」


嬉しそうに彼のお母さんは笑った。



彼はあの小さな部屋から出たら、生きていけない気がした。