原因は置いておいたとして、コトの経緯を把握しながら唇を噛み締める。

幸か不幸か皮肉にも、あたしの望みが叶ってしまったのだ。

捨て去りたかった自分の体を、今は別のひとが使っている。
中身は何にも知らない、正反対の男の子。

笑うべきところなのだろうか…?
マンガ的展開で言えば、これであいつらにほんの少しでも仕返しができるかも、と。

この体もとい、鈴木陽太という人物の素性は知れないけれど、この体なら、できなかったことができるかもしれない。
これはチャンスというやつなのだろうか。

これを“奇跡”という便利な言葉で括るなら、そうなのかもしれない。
だってこんなのどう考えたって、非現実な――…

「…うわ?!」
「?!」

ふと目に付いた自分の(と言ってもあたしのではないのだけれど)手の平が真っ黒く汚れていて、ぎょっと両手を内に向ける。
開いた両手は両方とも、墨でも擦り付けられたように黒く汚れていた。

その拍子に学生証が床に落ち、軽い音が小さく響いた。

「な、なに…?! 真っ黒…!」
「あ…えっと、それは、その…」

あたしの声に驚きながらも、この汚れに心当たりでもあるらしい彼は、ばつの悪そうな顔をし落ちた学生証を拾い視線を彷徨わせる。

なんだ、と凝視するあたしの視線に耐え切れなくなったように、小さな声が返ってきた。

「髪、カラースプレーで染めてるんです…黒く…」
「は…?」