「――陽太」
一番に口を開いたのは、やはり隣りに居たお兄さんだった。
「食べないのか」
そう言われて、漸くゆっくりと自分の手元を見る。
お茶碗もお椀の中も皿に分けられたおかずも、まったく減っていない。
「た、食べ、ます…」
言葉遣いにも気を遣っていたけれど、思わず敬語が漏れた。
それどころではなかったのでしょうがない。
だけどお兄さんからもお母さんからも特に何も言われなかった。
ぐっ、と握り締めたフォークの感触を漸く感じるようになって。
彼が、鈴木陽太が、自分のお父さんに対して抱く畏怖感を知る。
お父さんがこの部屋に入ってきた瞬間、まるで体が凍ったように力が入らなかった。
お父さんがこの部屋を出た瞬間に、体から一気に力が抜けるようだった。
その感覚は、自分にも覚えがあるもので。
意外なところばかり似ているなと思う。