テーブルの、4つの席が埋まる。
帰ってきた彼のお父さんは、お兄さんの向かいの席に座った。
椅子はひとつ空いたままだったけれど、これで家族は揃ったことになった。
彼のお母さんはお父さんの食事の支度をしに席を立ったので、食卓には3人だった。
お兄さんは変わらず無表情だったけれど、家の主が帰ってきたからか、箸を置いて食事の準備が整うのを待っていた。
あたしもフォークを持ったまま、それに倣う。
お父さんはネクタイを緩めながら、ゆっくりと口を開いた。
「晃良、明日の午後はちゃんと空けてあるのか」
「都内病院長の学会ですよね。ちゃんと覚えてますよ」
「新設した病院の挨拶もあるらしい。お前が挨拶しておくんだ」
「…わかりました」
淡々と交わされる会話はやけに低調なように感じた。
お父さんは、お兄さんの方しか見ていない。
どうしてだろう。
フォークを持つ右手が震えていて、それを隠すのに必死だった。
それからお父さんの食事の準備も整ったところで、食事は再開された。
あたしもフォークでの食事を、異様にドキドキしながら再開した。