「お前、左手ケガしてたんだろう。ムリして使うな」
「え…っ」

突然のお兄さんの言葉に、思わず顔を上げる。
お兄さんと目が合ったけれど、お兄さんはやはり無表情だった。

「まぁ、そうなの?」
「え、あ、その…」

右手に巻かれている包帯は上手く隠してあるけれど、左手に傷は見当たらない。痛いわけでもない。

上手く言葉を発せずにいると、お兄さんが隣りで続けた。

「後で手当てしてくれって頼まれてたんだ。母さん、フォークか何か」
「そうね、お箸じゃ食べづらそうだものね」

言ってお母さんはすぐに台所に行って、彼用のフォークを持って来てくれた。

「ムリしなくて良いのに」
「あ、ありがとう…」

差し出されたフォークをおずおずと受け取った時だった。

「…父さん」

隣りのお兄さんの呟きに、体が凍る。

思考も神経も一瞬停止し、それからなんとか視線を動かしたその先に、彼の、お父さんが居た。