長方形の広いテーブルに、5つのイス。
テーブルの上には既にいくつもの料理が並んでいた。

お味噌汁の良い香りが鼻をくすぐる。
明らかにうちで使っているのより良い味噌だ。ぜったい。

しまった席がわからないと思ったけれど、テーブルには食事のセットが3人分しか並んでいなかったので、それとなくお兄さんが席につくのを待ち後から来たお母さんがお皿を置いてくれた雰囲気でなんとなく彼の席を推測した。
席についた時何も言われなかったので、間違ってはいなかったようでほっとした。

席につく際に彼のお母さんと目が合った。
やわらかくウェーブのかかった髪を肩元でまとめていて、レースの付いたエプロンが良く似合っていた。

なんとなく、うちのお母さんとは正反対だなと思う。
目が合うと柔らかく笑ってくれて、なんだかいたたまれなかった。
笑い返すべきかを迷ったけれど、とてもそんな器用なことをできる余裕はなかった。

隣りの席のお兄さんがお母さんからお味噌汁のお椀を受け取りながら、口を開く。

「…父さんは?」
「少し遅れるみたい。今日は講演会があるって言ってたから」

あたしの真向かいの席に座りながら、お母さんは明るく笑った。

「先に頂いちゃいましょう、冷めちゃうわ」

その言葉にお兄さんも静かに頷き、自分もそれとなくそれに倣う。

「いただきます…」

手を合わせて呟いたあたしを、隣りのお兄さんと目の前のお母さんが見ていた。
だけどあたしはそれどころではなかった。