なるほどこのカラースプレーも伊達メガネも、“外”用だから、家族の前だとおかしいのか。
「…せっかくやったのに…」
…ていうか。
カラースプレーを落とすにしても、洗面所がわからない。
それに、ここの家の食卓も。
あたしは未だ、基本的にこの部屋しか知らないのだから。
「……」
はやくも引き受けたことを後悔する。
さっさと外に出て、家に向かっていれば良かった。
他人の家の事情なんて、放っておけば良かった。
「……はぁ…」
それでもここでうだうだしていても仕方ない。
もうお呼びがかかってしまったし、返事をしてしまったのだから、行かなければ。
意を決して、ひとまず頭は黒いまま、部屋を出る。
洗面所があるとしたら本宅の方だろう。
行ってみて、探すしかない。食卓も。
どうにかなるだろう。
ならなかったら彼を見習って逃げよう。
幸いにも、目当ての場所はドアを出た廊下の突き当たりに見えたので、逃げずには済んだ。
洗面所でスプレーを落としたところで、見計らったようにお兄さんが再度迎えに来てくれたので、食卓も探さずに済んだ。
自分の家とは全く異なる広さの構造に心底驚きつつ、あたしはなんとか無事“鈴木家”の食卓についたのだった。