「母さんが昼食出来たから来いって」
「う、わ、わかった…っ」
なんとか平静を装おうとしたけれど、いきなりすぎて思わず声が上ずる。
どくんどくんと心臓が鳴っている。
そもそも彼ら兄弟が普段どんな関係なのかをそういえば聞いていない。
一番上のお兄さんの話しか、よく解ってないのだ。
それでも仲の良い兄弟という印象には、とても見えなかったけれど。
お兄さんはじっとこちらから目を離さない。
あたしは下手に動けず立ち尽くしていると、お兄さんが再び口を開いた。
「…その頭とメガネは、どうにかしてから来いよ。母さんが気にする」
それだけ言うと、お兄さんは早々にドアを閉めて行ってしまった。
ほっと胸を撫で下ろしながら、反射的に自分の頭に手をやる。
そうか、と思い出した時には既に遅く、ドロリとまたもや手が黒く汚れた。
顔をしかめながら、反対の手でメガネを外してテーブルの上に置く。
外に出る時のもはや習慣で、カラースプレーで髪を黒く染めていた。伊達メガネも。