『う、わ、わかった…あの…食事を…』
「食事?」
『そう、えっと、もうすぐお昼の時間で…たぶん、呼ばれると思うんだけど…』
腕時計を見ると、もうすぐ11時半をまわるところだった。
確かに昼食時だ。
自分も入れ替わる前まで、弦とお昼の準備をしていたのだから。
「断ればいいの?」
『だめ!』
電話の向こうで彼が再び叫ぶ。
今まで聞いたこともないような大きな声で、少し驚いた。
『ぼくの家の、ルールなんだ…! お願い、形だけで良いから、母さん達と一緒に食事をとって…!』
「……どういうことよ、それ」
またしても数秒の沈黙の後、彼は非常に言い難そうに、説明した。
『ぼ、ぼくがひきこもりだってことは、家族の誰も、知らないんだ…』
「……なにそれ、聞いてないけど」
『ご、ごめん、その、言いづらくて…』
「…まぁ、いいけど。続けて」
『うあ、はい…それで…』
──どうやら彼は、平日の昼間は学校に行っているフリをして何食わぬ顔で朝・夕の食事を家族と一緒にとり、実は学校にも行かず外にも出ず、ずっとこの部屋に引き篭もっているという事実は、家族には内緒にしているとのこと。
と言っても、父親はほとんど家におらず、次兄も朝はやくに家を出て夜は遅く、ほとんど顔を合わせることは無いという。
だけど日曜の昼食だけは、違う。
必ず家族で揃って食事をとる。
それが彼の家のルールなのだそうだ。