ブー、ブー、ブー…
ちょうど外に出てドアの鍵を閉めたところで、ポケットの中の携帯が振動した。
取り出して見た画面には、自分の名前。
つまりはあたしの携帯を持っている、彼からの電話だった。
なんだろうと思いながら、少しだけ操作の慣れたスマートフォンの通話ボタンを押す。
慣れたと言っても通話操作に関してのみだけれど。
「…もしもし?」
『つ、月子ちゃん…! まだ家?!』
「もう出るところ」
『…っ、待って! お、お、お願いが…!!』
慌しく電話の向こうで叫ぶ彼に、なんとなくイヤな予感がした。
携帯依存の彼が、今まで真っ先に携帯を持ってきてと懇願していた彼が、それを差し置いてまでお願いしたいこと。
そんなの、厄介ごとか面倒くさいことに決まっている。
「イヤ」
『まま、待って月子ちゃん! や、やる前にイヤとかムリとか言っちゃダメなんだよ! それにまだ内容も言ってないし…っ』
「聞かなくても分かるわよ。どうせ面倒なことなんでしょう?」
『う、や、そんな面倒っていうか、その、なんというか…』
途端にしどろもどろになりながら、声が小さくなる彼にいらりとする。
相変わらずこの人のこういうまどろっこしいところには、慣れない。
数秒わざと間を空けて、それから思いっきりため息を吐いた。
「わかった、ひとまず聞くわよ。その後でどうするかはあたしが決める」