月子ちゃんは怒るわけでもぼくを責めるわけでもなく、右手のシャツの袖を戻しながら、いつもの落ち着いた口調で言う。

「……え…」

一瞬なんのことだか、わからなかった。
呆けた顔で月子ちゃんもといぼくの顔を見上げる。

「あなたは痛くないって言ってたけど、あたしはびっくりしたし、痛かった。今もね。だから強制はしないけど、できるなら、控えてもらえるかしら。まぁ、ムリならムリでいいんだけど」

その言い方はやっぱり月子ちゃんらしくて。
その月子ちゃんの言葉がなんだか可笑しくて。
そんなことを言われるなんて、思ってもみなかったから、びっくりして。

ぼくはきっと間抜けな顔をしてたと思う。
あ、でも今は月子ちゃんだから、それもいいか。なんて。

「……わ、わかった…がんばって、みる…」

今までどんなに自分で抑えようとしても無理だった。
こんなのダメだって…いけないって、ムダだって、頭では理解してた。
でもそうすることでしか自分を保てなかった。

そんな、ぼくが。

泣き言ばかり、弱音ばかりのぼくが、がんばる、だって。

「そう? じゃあ、よろしくね」

月子ちゃんが少しだけ笑う。
ちょっとだけ、褒められた気がした。

月子ちゃん自身にそんな気はなかったのかもれないけれど、ぼくがそう感じたんだからあえて確認はしない。

自分でも少し可笑しかった。
でも、これはきっと、大事なことだと思った。

痛いって月子ちゃんは言った。
ぼくは、ぼくだけは絶対に。


月子ちゃんを傷つけたくないと、そう思ったんだ。