「ほんと、だよね…しつこくて、イヤになる」

言いながら薄く笑って、睫毛に残っていた滴を指先ですくう。
小さな指先の小さな滴は、窓の外の光に反射してキラキラしてた。

これはぼくのじゃなくて月子ちゃんのだから、そう思えたのかもしれない。
不思議とぼくの目で見るそれと月子ちゃんの目で見えるものは、違った。
視力云々は置いておいて。

ぼくの都合の良い変換フィルターに過ぎないのだろうか。
月子ちゃんの体に居るとほんの少しだけ、世界の違った見方を知れた。

だけど世界が変わるわけじゃないことも、わかっていた。

「ずっと…ぼくはそいつが怖くて、仕方ないんだ」
「……ずっと…?」

「うん、ずっと。…そいつの名前は、桜塚健太」
「……桜塚、って…」

月子ちゃんの言葉にぼくはこくりと頷いた。
たぶんこの学校の誰もが知る名前だから。

「この学校の理事長の孫だよ。ぼくはそいつと初等部の頃から、ずっと同じクラスなんだ。…イヤになるくらい、ずぅっと」

桜塚健太は、ぼくと月子ちゃんのクラスメイトで、そしてこの学校のリーダーだ。

この学校はずっと、彼の都合の良い遊び場だった。
そしてぼくはずっと、彼の都合の良い玩具だった。