「…月子ちゃんは、殴られたり、蹴られたり、痛くないの…?」

ず、と鼻をすすりながら、漸く吐き出した第一声がそれだった。

月子ちゃんの顔は見えない。
ぼく自身が見ようとしていないのだから、当たり前なのだけれど。

「…慣れてるから。割り切ってしまえば、楽よ」

月子ちゃんはなんでもないことのように答える。
相変わらず冷静な、落ち着いた声音で。
声はぼくのものなんだけど、なんだかもうぼくのじゃないみたいだった。

「…ぼくも…痛くない傷が、あるよ。…いつからだろう…そこ以外はちょっとの傷で痛くて痛くて堪らないのに、どうしてかそこだけは、どんなに傷つけても、痛くないんだ」

言いながら反射的に右手首をぎゅっと掴む。
そこには細くて白い手首があるだけだった。

「はじまりは…いつだっただろう…」

そっと瞼を閉じて、ぼくはゆっくりと語りだした。

ぼくが放つ声は女の子の声で、まるで他人事のようにも聞こえた。