姿形はあたしそのもの。
あたしが、目の前に居る。

「え、な、なに…!? あ、あたし…!?」
「あ、あ、あぁの! き、気持ちは、大変よく分かりますが…ッ お、落ち着いてください…!」

いや、あんたが落ち着け。
いやいや、あたし…?

「え、じゃあ、“あたし”は…」

目の前に両手を掲げてみて、見慣れた自分の手ではないことは分かった。
それからぺたぺたと顔や体をまさぐる。

そうだ、さっきの違和感。
この声も、手も、目も。

「もしかして…」

いつも両耳のあたりでおさげにしている髪がない。
手触りも全く違う。

メガネをかけてる。
だけど伊達っぽいな、度が入ってない。

服も、女子用の制服のスカートじゃない。
男子生徒のズボン、だ。

腕の長さや足の長さも違う。
自分のものとは全く異なる、ソレら。

気づけば体中が違和感の塊だ。

そうか、何よりやけに体が軽いなと思ったら、胸もないんだ。
その代わりに…

「うわぁ! どどど、どこ触ってるの…!!」
「あ、ごめん、つい気になって…」

あたしの行動に慌てて両手をばたばたさせる“あたし”に平謝りし、乱した服を整える。
そして目の前の“あたし”をじっと見据えた。
そこには…月明かりだけの薄暗いその瞳には、全く知らない男の子が映っていた。

「えーと…つまり…」
「はい、えっと…」

あたしの顔で申し訳無さそうに、言い難そうに顔を俯きながら。
それから用意しておいたらしい、手帳のようなものをそろりと差し出してきた。

「鈴木、陽太と申します…」