さっきの彼女と対面した時の、あの感覚は、ぼくの意思を置いて、きっと月子ちゃんの体が反応したんだ。

昨日も同じようなことがあったのを思い出した。
夜の学校で状況を見ながら時間の経過を待っている間、互いの話をしていた時のことだ。

あの時、事態にうろたえて混乱していたものの、話している内に大分心臓は落ち着いていた。
それでも一度だけ、大きく心臓が反応した時があったのだ。

息苦しく、重苦しく、自ら首を絞めているような、そんな感覚。
またいつもの臆病癖が出たのだと思って、その時はそこまで気にならなかった。ぼくがムダにびくびくするなんて、しょっちゅうだからだ。

だけど、違ったんだ。
ぼくじゃなかったんだ。

それは、月子ちゃんがお父さんのことを口にした時。
その一度きりだった。


「……なに、泣いてるのよ」

突如、声が降ってくる。

埋めていた顔をがばりと上げると、月子ちゃんもといぼくが、すぐ目の前でぼくを見下ろしていた。
少し呆れたような、困ったような顔で。

月子ちゃんはちゃんと綺麗に髪を黒くしてくれていたし、メガネもしてくれていたし、きっと急いできてくれたのだろう、わずかに息が上がっていた。

普段全く運動なんてしないひきこもりの体は、さぞや重たく扱いずらかっただろう。
だけど走って来てくれた。
こんなぼくの為に。

まだ出会ってたったの2日目だ。
だけどそれでもわかる。
わかることがあるんだ、ぼくにだって。

月子ちゃんは、優しい子だ。
強くて優しい、家族思いの女の子だ。