可笑しそうにくすくすと笑う声が、鼓膜のずっと奥でもまだ笑っている。
長い爪、赤い口、濁った目の色、毒を吐く息。
裂けた口で笑うその顔は御伽噺の魔女みたいだと思った。
これはなんだろう。
息苦しく、重苦しく、指先から冷えてゆく、この感覚は。
その反面で心臓だけがどくどくと、熱い血を絶えず噴き出している。
ものすごいはやさで。
「…なに、また得意のだんまりかよ」
すぐ鼻先のその顔から笑みが消え、眉間に綺麗な筋が入る。
舌打ちと共に吐き出された言葉に全身がざわついた。
これは、この感覚は――
「恭子、健太達が探してるって」
別の女生徒が携帯電話片手に呼んだ声に、“恭子”さんは再度短く舌打ちし、勢いよく立ち上がった。
それからポケットから取り出した携帯電話を器用に片手で操作しながら、ぼくを見下ろす。
ぎょろりとした目玉が、ぼくを逃がさないと言う。
「またさぁ、暇になったら呼ぶから。今度は昨日より、もっとオモシロイこと考えとくから、ま、楽しみにしててよ、山田サン」
言い終わると同時に彼女は携帯電話をポケットにしまい、踵を返したかと思った次の瞬間――
「……っ…!」
鈍い音が廊下に響いた。
それは近く、自分の右肩のあたりから。
おそるおそる眼球だけ動かすと、右肩からは細く長い脚が伸びていて、目の前の彼女に繋がっている。
ぼくの右肩は、彼女の足の下にあった。
ちがう、ぼくの、じゃない。
これは、月子ちゃんの――
「あんたもさ、ちっとは反応してよ、つまんないじゃん。わざわざ相手してやってんだからさぁ」